気候変動への対応方針
気候変動への対応方針
気候変動課題に対する認識
資産運用会社では、気候変動及び気候関連課題への資産運用会社事業のレジリエンスを以下のように認識しています:
- 「パリ協定」(2015年)、「IPCC特別報告書」(2018年)、「IPCC第6次評価報告書」(第一作業部会,2021年)等に於いて示されるように、気候変動の進行は科学的事実です。気候変動の進行は自然環境と社会構造に劇的な変化をもたらし、資産運用会社の経営とビジネス全体に重大な影響を与える(マテリアルな)課題です。
- 気候変動の進行により、台風・豪雨の激甚化、熱波や干ばつの頻発、世界的な海面上昇の進行等の気象・気候災害の発生、拡大が予想されます。これは資産運用会社の事業に重大な影響を及ぼす可能性があります。
- 気候変動を緩和する為の全世界的な取組みとして、温室効果ガスの排出削減に向けた枠組みの設定や排出規制の強化等、社会経済の脱炭素化への移行が予期されます。この変化は資産運用会社の事業に重大な影響を与える可能性があります。
- 気候変動問題は金融に於けるシステミック・リスクであるという認識により、気候関連のリスク・機会に関する情報の開示が投資家等多くのステークホルダーから求められています。特に「気候関連財務情報開示タスクフォース」(TCFD)の提言に沿った気候関連リスクの開示の推進を通した透明性の向上は資産運用会社にとって重大な課題です。
- 気候関連のリスク・機会に関して識別・評価・管理を行い、事業のレジリエンスを高めることは、資産運用会社が行う不動産私募ファンド事業(以下、「資産運用会社事業」)に於ける持続可能かつ安定的な収益を長期的に獲得する為にも必要不可欠な事項です。
基本方針・コミットメント
前述の認識を踏まえ、資産運用会社は以下の事項を気候変動及びレジリエンスに関する基本方針及びコミットメントとして定めています:
- 資産運用会社はパリ協定で定められた国際目標を支持し、気候変動の緩和に貢献する為、温室効果ガス排出の削減に継続的に取り組みます。
- [ガバナンス] 資産運用会社は資産運用会社事業に係る気候関連のリスク・機会に対応する為にガバナンス体制を以下の通りに定めています:
- 気候関連課題に係る最高責任者は、サステナビリティ委員会の議長である代表取締役社長とし、気候関連課題に係る執行責任者はサステナビリティ執行責任者である取締役COOとします。
- 気候関連課題に係る執行責任者は、気候変動による影響の識別・評価、リスク・機会の管理、適応と緩和に係る取組みの進捗状況、指標と目標の設定等の気候変動対応に関する事項等を、サステナビリティ委員会に対して定期的に報告します。サステナビリティ委員会は、報告を受けた事項への対応に関して、必要に応じ審議・検討した上で、サステナビリティ委員会要綱に基づき意思決定を行います。尚、気候関連課題に係る執行責任者は、気候関連課題への対応に関する進捗状況等を取締役会に対して定期的に報告します。
- [戦略] 資産運用会社は気候関連のリスク・機会が資産運用会社事業及び戦略、財務計画に与える影響を識別・評価・管理する為のプロセスを定め、これを適切に運用します。気候関連のリスク・機会の識別・評価に際しては科学的・学術的知見を活用し、体系的かつ客観的に行うことを目指すものとします。
- [リスクと機会の管理] 資産運用会社は識別された気候関連のリスク・機会を管理し、レジリエンスを高める取組みを推進することにより、資産運用会社事業上のリスク低減と価値創出の機会を実現し、持続可能かつ安定的な収益を長期的に獲得することを目指します。
- [指標と目標] 資産運用会社は気候関連のリスク・機会を管理する為の指標と目標を設定し、指標に関しては資産運用会社の運用戦略と総合的リスク管理との整合性にも注意を払います。また、設定した目標と、目標に対する実績を含めて開示を行います。
- 資産運用会社はTCFD提言に賛同し、提言で推奨される開示枠組みに準じて資産運用会社事業に係る気候関連情報の開示を、投資家をはじめとしたステークホルダーに対して行います。
TCFD提言への賛同
TCFDとは、G20の要請を受け、金融安定理事会(FSB)により、気候関連の情報開示及び金融機関の対応をどのように行うかを検討するため、マイケル・ブルームバーグ氏を委員長として設立された組織です。TCFDは2017年6月に最終報告書を公表し、企業等に対し、気候変動関連リスク・機会に関する以下の項目の開示を推奨しています。
資産運用会社では、2022年3月にTCFDへの賛同を表明しました。
ガバナンス | 気候関連のリスクと機会に係る組織のガバナンス体制 |
戦略 | 気候関連のリスクと機会が事業戦略や財務計画に及ぼす実質的・潜在的な影響 |
リスク管理 | 気候関連のリスクの特定・評価・管理に係る手法 |
指標と目標 | 気候関連のリスクと機会を評価・管理する際の指標と目標 |
TCFDに関する詳細は、こちら のウェブサイトをご覧ください(英語のみ)。
TCFDが推奨する開示項目に対する本投資法人の取り組み
ガバナンス体制
本投資法人が資産の運用を委託する資産運用会社におけるガバナンス体制は上記の基本方針・コミットメント及びこちらこちらより「サステナビリティ推進体制」をご覧ください。
戦略
シナリオ分析
本投資法人は、気候関連のリスク・機会を識別・評価するプロセスとしてシナリオ分析を採用し、2022年度より本投資法人の運用資産を対象としたシナリオ分析に着手しました。
参照した外部シナリオとその出典は以下の通りです。
シナリオ | 想定される世界観 | 参照 |
---|---|---|
4℃シナリオ | 脱炭素への対応は強化されず、気候変動に伴う災害の激甚化が顕著になると想定されるシナリオ |
IEA STEPS IPCC RCP8.5 |
1.5℃シナリオ | 脱炭素社会への移行が社会的に強化され、環境配慮対応が企業にも強く求められると想定されるシナリオ |
IEA NZE2050 IPCC RCP2.6 |
外部シナリオに基づく世界観
特定したリスク・機会、それに対する財務的影響度合い及び対応策
本投資法人が2022年度に実施し公開したシナリオ分析を基に、2050年の1.5℃及び4℃シナリオにおける発生可能性が高いとしたリスクと機会について財務分析を行いました。
気候変動リスクはリスクが顕在化する時期や規模についての不確実性が高く、その財務的影響の予測は極めて困難です。投資法人として、財務的影響度合いの算出に際しては一定の前提をおいて試算を行っておりますが、外部環境の変化等も踏まえ必要に応じて見直しを行って参ります。
リスク・機会の要因と本投資法人への財務的影響 | 発生可能性 時間軸:中~長期 |
財務的 影響度合い |
対応策 | ||||
---|---|---|---|---|---|---|---|
1.5℃ | 4℃ | 1.5℃ | 4℃ | ||||
移 行 リ ス ク |
政策と法 | GHG排出に対する炭素税等の課税強化により税負担が増加する | 高 | 低 | 高 | 低 |
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既存不動産における省エネ基準の強化によりエネルギー効率を高めるための改修費用が発生する | 高 | 低 | 高 | 低 | |||
省エネ法の排出量報告義務が厳格化し、報告に対応するための外部業者への支払など事業経費が増加する | 中 | 低 | - | - | |||
既存不動産の環境認証等に関する表示制度の拡充・義務化により認証・格付け取得費用が発生する | 中 | 低 | 低 | 低 | |||
テクノロジー | 再エネ・省エネ技術の進化・普及に伴い保有物件の設備が技術的に時代遅れになるのを防ぐため、新技術導入の費用が増加する | 中 | 低 | - | - |
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市場/評判 | 不動産鑑定への環境パフォーマンス等の基準の導入によりファンドのNAV(Net Asset Value)が低下する | 中 | 低 | - | - |
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再エネ・再エネクレジット価格の高騰により外部調達する水光熱費が増加し、★敷地内再エネ発電の付加価値が高まる | 中 | 低 | - | - | |||
テナントの需要変化により、気候変動対応が遅れている物件の賃料収入は減少し、★環境配慮された物件は省エネ性能重視のテナント等への訴求により賃料収入が増加する | 中 | 低 | 低 | 低 | |||
投資家・レンダーの意識変化により、気候変動に対応していない市場参加者の資金調達条件は悪化し資金調達コストは上昇、★環境配慮されたポートフォリオ・物件についてはグリーンローン・グリーンエクイティの活発化に伴い資金調達量は増加、調達コストは低下する | 中 | 低 | - | - | |||
物 理 的 リ ス ク |
急性 | 平均気温上昇に伴い台風・集中豪雨・洪水等が激甚化し、修繕費・事前対策費・保険料が増加する | 中 | 高 | 高 | 高 |
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慢性 | 海面上昇により海抜の低い物件等の浸水リスクが高まり、電源設備等の嵩上げ(大規模改修)費用が発生する | 中 | 高 | - | - |
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猛暑日や極寒日など極端気候の増加により空調需要が増加し、空調の運転・メンテナンス・修繕費用・電気使用量(使用料)が増加する | 中 | 高 | 低 | 低 |
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★正の影響(機会)も発生し得る事象
正の財務的影響
移行リスク
政策や法規制、消費者、投資家、社会インフラ等が脱炭素社会への移行に向け変化していくに伴い、自社が十分な対応をとらないことから生じるリスクを言います。上記財務分析の結果、この移行リスクの内本投資法人における2050年の1.5℃シナリオの財務的インパクトが高いリスクは、「炭素税の導入」「省エネ改修コスト」であると再認識しております。
この認識に基づき、本投資法人の指標と目標に記載の目標達成に向けて以下記載の施策を引き続き実施して参ります。
<本投資法人の「省エネ改修」施策例>
-
温暖化係数の低い冷媒機器への更新
(本牧物流センター他)
-
照明LED化
(ロジスティクスパーク野田船形他)
-
環境認証等の計画的な取得*1
(MCUD千葉北)
*1 環境認証の取得状況についてはこちら。
物理リスク
気候変動が引き起こす各種の自然災害(洪水・高潮・台風等の風水害)の激甚化に伴い、DPRが保有する資産へ直接的な被害が発生するリスクをいいます。上記財務分析の結果、この物理的リスクの内、本投資法人における2050年の1.5℃シナリオの財務的インパクトが高いリスクは、「災害関連費用」であると再認識しております。
この認識に基づき、以下記載の施策を引き続き実施して参ります。
<本投資法人の「災害関連」施策例>
本投資法人の「物理的リスク」に対する実施済施策についてはこちら。
機会
当投資法人では、上記の移行リスク及び物理リスクに対応することで、環境配慮型不動産の収益力向上や資金調達先の拡大に繋がると認識しております。
CRREM*2分析について
本投資法人は上記財務的影響度合いを分析するとともに、2050年ネットゼロに向けたDPRポートフォリオにおけるGHG排出原単位を計測し、立ち位置を確認する目的でCRREM分析を実施しております。今後、上記各種リスクへの対応を見直す一助としていく予定です。
- Carbon Risk Real Estate Monitor(CRREM)は、欧州連合(EU)の支援を受け、EU地域内の商業用不動産について、パリ協定の2℃、1.5℃目標に整合するGHG排出量の2050年までのパスウェイ(炭素削減経路)を算出し移行リスクを評価するツールを提供するプロジェクトです。対象をEU地域外に拡大させ、現在は日本を含むアジア・太平洋地域、欧州、北米の44ヶ国(2024年2月現在)における不動産を対象に、用途毎のパスウェイを公開しております。
リスク管理体制
本投資法人が資産の運用を委託する本資産運用会社におけるサステナビリティに関するリスク管理体制は下記のとおりです。
リスクの識別・評価プロセス
資産運用会社では、気候関連課題に係る執行責任者が、資産運用会社の事業に係る気候関連リスク・機会の識別・評価の為に、必要に応じ気候関連ワーキンググループを構成し、移行リスク・物理的リスクの枠組みに基づき、当該リスク・機会の有無に関して特定を行うこととしています。気候関連課題に係る執行責任者は、必要に応じ当該リスク・機会の特定の進捗及び結果をサステナビリティ委員会へ報告し、サステナビリティ委員会はその確信度と影響度に係る検討結果等に基づき、リスク管理対応の優先順位付けを行います
リスクの管理プロセス
事業・財務計画上重要な優先順位の高い気候関連リスク・機会に関しては、対応担当部署または担当者が対策案を策定し、サステナビリティ委員会等にて審議の上、実行されます。
指標と目標
本投資法人では、以下の目標の通り、GHG排出について2050年までにネットゼロを目指すことを長期目標とし、また、中期目標として2030年までにGHG排出量原単位を2016年度比30%削減、エネルギー効率改善設備の導入やCO2ゼロでのエネルギー調達、環境認証等取得に関するKPIも設定し、目標達成に向けた具体的なアクションを着実に実行しています。中期目標・KPIの妥当性については、進捗状況や第三者機関による検証結果等を鑑みて見直しを行う可能性がございます。
- 目標
- 中長期的に年平均1%のエネルギー消費原単位の低減
2030年までにGHG排出原単位を2016年比で30%削減、2050年までにネットゼロの達成
- 目標
- 2025年までに照明LED化比率90%(延床面積ベース)の達成及び維持
空調機の更新/設置時における温暖化係数の低い冷媒機器の導入
- 目標
- 2025年までに直接管理物件についてCO2ゼロでのエネルギー調達比率80%(延床面積ベース)の達成及び維持
- 目標
- 2025年までに環境認証等(3★相当以上)取得割合を80%(延床面積ベース)の達成及び維持